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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(れ)1792号 判決

主文

原判決を破毀する。

本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

弁護人五十嵐太仲の上告趣意について。

記録を調べてみると、原審が昭和二五年一月二七日附で被告人に対する第一回公判期日(同年二月一〇日午前一〇時)の召喚状を、その第一審裁判所における保釈の際の制限住居たる川崎市末長二〇三〇番地光友寮一七号室に宛て発したところ右召喚状は溝ノ口郵便局集配人某により「二〇三〇に尋たるも不明、転居先不明」の事由により原審に返戻されたこと、右第一回公判期日には被告人出頭せず、原審は被告人に対する送達は住居不明に付き公示送達による旨の決定を宣し、次回期日を同年四月二六日と指定し同期日の召喚状に付き公示送達の手続をしたところ、該公判期日にも被告人不出頭のため当日公判期日を延期し、次回期日を同年五月二二日午前一〇時と指定し同期日の召喚状も公示送達の方法により送達し、次で右第三回公判期日には被告人不出頭のまま公判を開き結審し、判決言渡期日を同年六月二一日と指定し、同期日の召喚状も公示送達し、該期日に被告人不出頭のまま判決を宣告したこと明らかである。然るに、本件記録添附の上訴権回復申立に関する一件記録に依れば、被告人は昭和二一年六月四日頃から引き続き現在迄前記住居に居住しその間転宅又は長期間家を不在にしたことはなく、光友寮は第一寮から第四寮まであり(但し、いずれも同番地)被告人は第一寮一七号室に居住するが郵便物も単に光友寮と記載しただけで被告人に到達していることがわかる(川崎市長金刺不二太郎の被告人に対する居住証明書、原審受命裁判官の検証調書、同上の安藤政兼、小島アイに対する各訊問調書等参照)。然らば、前記溝ノ口郵便局集配人某が原審第一回公判期日の召喚状の送達をすることができなかったのはその理由を解するに苦しむのであるが、結局調査粗漏か又は過誤によるものと認むるの他なく、もとより被告人の住居不明とするわけにはいかないのである。従って、原裁判所が右郵便集配人某の報告に基いて他に何等の調査をつくさず、直ちに被告人の住居が不明な場合として同人に対する召喚状を公示送達に付したことは違法といはなければならない。されば原審がその公判期日に被告人が出頭しないに拘らず公判を開廷し被告人を懲役八月(但し一審未決四〇日通算)及び罰金千円に処したのはその公判手続に旧刑訴四一〇条八号に該当する瑕疵あるもので、右の違法は事実の確定に影響を及ぼすべきものであるから刑訴施行法二条旧刑訴四四八条の二に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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